木の実片手数珠に込めたもの
写真は私が母方の伯父から受け継いだ木の実の片手数珠です。経年劣化で紐が切れていたのを年末に近くの仏具店に修理
に出していたのが漸く終了して引き取ってきました。
仏具店の店主によれば象牙を使っており、今時にして大変珍しいとのことでした。伯父が何十年も使っていたことは知っていた
のですが、子供がいなかったので甥である私が引き継がせて頂きました。これを左手にした時、伯父の顔と声が浮かびました。
伯父は京都で京友禅の職人をしていました。戦前、母方の祖父母が祇園で友禅屋を営んでおり、職人さんも何人もいたとの事で
したが、戦争で店をたたみ、伯父も南方へ出征しました。京都の部隊で1,000人近くが出征し、艱難辛苦の末にシンガポールで
行き倒れてインド兵に捕虜とされ、イギリス人医師の手で一命を止めたとの事。そして終戦。
更に引き上げの船内でコレラが発生し、船は日本本土が見える沖に感染が落ちつくまで停泊、生死の選択を余儀なくされたとの
事でした。ひどい栄養失調の状態で帰還した時にはすでに戦死の通知が家に来ていたのですが、私の母親が洗濯物を干している
時に、老猫がなけなしの声を出して勢いよく家を飛び出し、遠くに見えるヒトカゲの周りに取りついて離れない様子をずっと見
ていて、ふいに戦死したはずの伯父の帰還に思い至ったとの事でした。出征前にとても可愛がっていた猫は伯父の帰還を誰より
も早く感じ取った様でした。なお、同じ部隊で南方へ出征したのは1,000人ほどでしたが、無事に復員できたのは1桁だったそう
です。
伯父のその様な話は時折聞いていましたが、そんな思いも込めて慰霊祭にはこの数珠を握りしめていたのかも知れません。今と
なっては聞く事もできませんが、この数珠を見る度に伯父のことを間違いなく思い出すでしょう。
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